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東京高等裁判所 平成2年(ネ)91号 判決 1990年7月09日

控訴人 橋本靖由

右訴訟代理人弁護士 岩月史郎

被控訴人 浅草信用金庫

右代表者代表理事 森田新太郎

右訴訟代理人弁護士 池田達郎

大林清春

白河浩

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。なお、≪証拠≫によれば、本件譲渡担保権は、被控訴人において本件不動産を処分して優先弁済を受ける処分清算型の譲渡担保権であると解する余地がないではないが、≪証拠≫並びに弁論の全趣旨によれば、本件譲渡担保権設定に至る経緯、特に被控訴人及び控訴人のいずれもが当初から本件不動産を被控訴人において処分することを前提に本件譲渡担保権を設定したものではないこと、本件譲渡担保権設定当時すでに先順位の抵当権が設定されていたこと、後記のとおり、現に被控訴人と控訴人はその後本件不動産を四億円と評価して、その所有権を被控訴人に確定的に帰属させる旨を合意していることが認められ、これらの事情を総合すると、本件譲渡担保権は帰属清算型の譲渡担保権と解するのが当事者の合理的意思に合致するというべきである。

二  同2について判断する。

≪証拠≫によれば、次の事実が認められる。

(一)  被控訴人は、昭和六一年三月二八日、八番八の土地について、その評価額を一億三〇〇〇万円と評価して、被控訴人の控訴人に対する求償金債権について、その所有権を確定的に被控訴人に帰属させることを合意し、更に、同年七月三一日、前記被控訴人の主張にかかるハシモトの日本債券信用銀行及び全国信用金庫連合会に対する合計四億円の借入元金債務を代位弁済した。被控訴人と控訴人は、同日、その求償金債権に関し、当時の本件不動産の負担がないものとしての見積り価格から先順位抵当権者に対する当時の控訴人の債務額約一億二七〇〇万円を控除し、本件不動産を四億円と評価した上、その所有権を確定的に被控訴人に帰属させる旨を合意をした。

(二)  被控訴人と控訴人は、昭和六一年一二月一日、本件不動産及び八番八の土地を後日売却する際には、その差益分をもつてハシモトの他の債務の弁済に充てることが被控訴人、ハシモトのいずれにとつても利益であるとして、これらの処分に際しては、控訴人がそれらを右各評価額で買い戻した上、それを売却し、被控訴人は控訴人からその代金債権の譲渡を受けて、それをハシモトの被控訴人に対する債務の弁済に充てることを約した。

(三)  その後もハシモトの経営状態が更に悪化したため、本件不動産及び八番八の土地を右約定に従つて売却することとなり、控訴人及び被控訴人双方が買い手を物色した結果、訴外会社が右両物件を代金合計七億三五〇〇万円(本件不動産につき五億三五〇〇万円、八番八の土地につき二億円)で買う意向を示したため、控訴人もこの価格を了承して、控訴人は、昭和六二年九月一七日、本件不動産を訴外会社に対し代金五億三五〇〇万円、抵当権等の負担は売主側で除去する約で売り渡した(訴外会社が右価格で本件不動産を買い取つたことは当事者間に争いがない。)。そして、被控訴人は、右同日、控訴人から、訴外会社の承諾を得て、右売買代金債権五億三五〇〇万円をハシモトの債務の支払いに充てる目的で譲り受けた。被控訴人は、訴外会社からその内金四億六九八〇万二六四二円の支払いを受け、それをハシモトに対する債権等に対する弁済の一部に充当したが、残金六五一九万七三五八円は、控訴人が訴外会社に対して建物の一部を明け渡さないため、その支払いを受けることができず、結局、被控訴人のハシモトに対する債権は昭和六三年一〇月一二日現在、九四四五万円余が残存している。

なお、八番八の土地は、昭和六二年九月二九日ころ、控訴人が訴外中村洋子に対し代金二億円で売り渡したが、被控訴人はそのうちの一億九五〇〇万円をハシモトに対する債権の弁済として受領し、残金五〇〇万円は控訴人が受領した。

右認定に反する乙第三号証の一部は、≪証拠≫に照らして措信できない。

右認定した事実によれば、右(一)の合意は、その評価額自体が厳密に検討されたものではなく、売買差益の発生をも当然予想して決定されたものというべきであるから、債権者である被控訴人と担保提供者である控訴人との合意であるとはいえ、被控訴人の清算義務を免れさせるものではないというべきである(なお、帰属清算型の譲渡担保においては、債権者がその目的物を自己に確定的に帰せしめる旨の意思表示をしただけでは、債権者が譲渡担保権の実行に入る意思を表示したに止まり、未だ債務消滅の効果を生ぜず、したがつて清算金の有無及びその額が確定しないため、債権者の清算義務は具体的に確定していない。最高裁昭和六二年二月一二日第一小法廷判決・民集四一巻一号六七頁参照)。

しかしながら、被控訴人と控訴人は、その後、被控訴人のみならずハシモトの利益等をも考慮して、右(二)の合意をし、その合意に基づき、控訴人が本件不動産を四億円で被控訴人から一旦買い戻した上、これを控訴人において自ら訴外会社に売却したというべきであるから、被控訴人は本件売却に関し適正な価格と被担保債務との差額につき清算義務を負うものではないというべきである(なお、本件譲渡担保権が処分清算型であるとしても、そのことが右判示を妨げるものではない。)。

もつとも、控訴人は、本件売却についてはその代金額をも含めてすべて被控訴人がその意思で決定したもので、その実質は被控訴人によつて売却されたものである旨主張するが、前記認定の事実からすれば、被控訴人が本件売却先の物色等に関与したことは窺えないではないが、それ以上に、控訴人の意向を無視してまで本件売買契約を控訴人に締結させたことを認めるに足りる証拠はない。

以上のとおりであるから、請求原因2の事実を認めることはできず、控訴人の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

三  以上のとおり、原判決は相当であるから、民訴法三八四条により、本件控訴を棄却する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 吉原耕平 池田亮一)

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